アフターケアの強化についても触れておきたい。ヴィトン製品の特徴として、丈夫さ、頑丈さがあげられる。実際使用している人に聞くと確かに持ちは良いようだ。この丈夫さ、耐久性という長所をさらに伸ばそうと、秦は一九九一年に専門のリペアセソタ‐「丈夫だから修理の必要はない」、ではなく、「丈夫だからこそより積極的に修理を受け付けよう」と設けられたこのセンターでは、パリから部品を取り寄せ、パリで勉強した職人がパリと同じ手法でリペアを行っている。いくら長持ちするとはいっても、使っていると弱る部分がどうしても出てくる。それを補強し、もっと長く使ってもらおうというサービスだ。長持ちさせるよりも、買い替え需要を煽ったほうが売上につながる、新品を買ってもらったほうが数字に直結するといって、部品を用意せず、すぐに壊れたり弱ってしまう製品を送り続けてきた多くの日本のメーカーとは対極の考え方だ。しかし、アフターケアを強化したほうが、「またこの店で買おう、またこのブランド品を買おう」という固定ファンの育成につながるというもの。ルイ・ヴィトンジャパンの考え方は、当たり前で合理的。短絡的ではなく長期的だ。製造から販売までを自社が握り、売れ筋を逃さないシステムを構築した上で、適正な価格の製品を正社員が売り、アフターケアも強化。ルイ・ヴィトンジャパンが構築したこの仕組みは今ジャパンモデルとして世界中のヴィトンに適用されている。優れたシステムだという評価は高く、他のブランドもこぞって同じような仕組みを取り入れている。それでもなお疑問が残る。いくら、他のブランドよりも売るための仕組みが整っているからといって、なぜ日本で一日に四億円もの売上を上げることができるのか。評論家の堺屋太一との対談の中で、ヴィトンの成功について秦は次のように述べている。商品が合っていたという要素が六割ぐらいじゃないでしょうか。展開の仕方が四割ぐらいはあるかと思います。ですけど、やはり『商品ありき』というところが強いと思います。いいものを長く使うというのが日本人の大事にする一つの価値観だと思うんですね。(朝日新聞社『論座』二〇〇二年二月号)しかし、良いものを長く使う日本人の価値観があるとしても、エルメスやダッチも「質の良さ」をうたっている。他のブランドをさしおいて、なぜヴィトンだけにその価値観がうまく働き、「お化けブランド」になり得たのか。一つには、売上の六割を占めるモノグラムラインのあの柄である。一目でヴィトン製品だとわかる上に、茶色の生地は無難でどんな洋服にも合いやすい。ヴィトンは「旅」をコンセプトにした製品作りを行っている。つまり、フォーマルではなく、カジュアルシーンにはまるバッグだ。だから、あまりシーンを選ばない。どんな洋服にも合わせやすい。実際はシーンを選び、服も選ぶのだが(少なくとも結婚式に持っていくバッグではない)、日本人の多くは「何にでも合わせられる」と思い込み、どこにでも持ち歩く。モノグラムは、日本の家紋をペースにデザインされているため、日本人には馴染みやすかったという説もある。京都服飾文化研究財団の深井晃子理事は、モノグラムの渋い色調は日本人好みで、質感も江戸時代に旅行用品などに使われていたサメ革に似ていると指摘した上で次のように述べている。フランスのデザインと感じさせつつ、親近感をもてるところが日本人を引きっけているのだろう。(TBSブリタユカ『Newsweek』二〇〇二年一〇月二日号)手頃な値段もヴィトン人気の一要素だ。上を見ればきりがないが、一〇万円以下で手に入る商品がヴィトンには多数揃っている。ちょっとがんばれば買える値頃感、「ヴィトン」であることを強烈に訴える柄でありながら、無難で使い回しが利き、親近感が高い点がヴィトンの成功に大きく寄与したのだろう。LVの人気は、親しみやすさと同時にアート感覚も欲しいという両極の願望を横断する微妙な仕掛けで、日本人の心をきっちりとつかんでいるのである。クリエイティブなラインの発表で、伝統と歴史のあるヴィトンの。バッグを持つことがダサいことではなく、むしろオシャレな証であり、一歩先のファッションであると消費者に刷り込みをかけるマーケティング戦略。商品が核になっていることは間違いないが、展開の仕方がうまいからこそ、商品力が持ち前の力を発揮する。